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意外と不自由なこの空間(吉加)

 2008-01-08
流れる景色、爽快な高速道路。

物語のお姫様のように攫われて、僕は今、黒馬の王子様と現実逃避中。

あぁ、どうしよう。何もかもが素敵だ。

車のエンジン音も、飛ぶように流れる景色も、隣の貴方の運転する腕も、道路とたまに景色を楽しむ貴方の真っ直ぐな瞳も。

ぞくぞくするような大人っぽいガーネット。

駄目だ、熱があるように僕の頭が溶けてくる。

抱きついてしまいたい…、運転中なのは解っているけど。

さっき遊んでもらったばかりだけど。

確認するように自分の開いた胸元を見ると、これでもかと散った花びらの痕。さっきまでの映像がふわりとフラッシュバックする。

押し倒された力強い腕、色っぽく熱っぽいガーネット、激しいキス、熱い唇。

「んっ…」

思わず思い出して身を震わせた。身体の芯にまた火がついたよう。

横の暁彦さんが盛大な溜息をついて、明らかに怒った声で言った。

「盛りの付いた猫をドライブに誘ったつもりはないが。」

変換。

何一人で盛り上がっているんだ。今私は手が離せないんだから誘うのは止めなさい――

かな。ふふっ…暁彦さんのトゲトゲしさは衝動を抑えている時が多いんだよね。

柔らかく笑って、僕はちゃんと解ってますよ、とアピールする。

「あはは…、変な声出してごめんなさい。…抱きついてしまいたいと思って…、さっきのこと思い出しちゃいました。」

暁彦さんは少し押し黙って、やっぱりズバッと切る。

「それで?それを私に聞かせて、どうするつもりだ。」

あはは…、言い方キツいのに、僕を触れないって苛立ちが言葉に表れちゃってるよ暁彦さん…。

「抱きつきたいけど、出来ないので、せめて気持ちだけでも伝えようと思って。……僕、今とっても幸せです。」

「…また唐突だな。」


貴方にこんなに愛されて。

何か見落としていて、本当はそんなに愛されていないとしても、

僕のただの幻想でも、

僕はとっても幸せです。
愛してもらえて、車にも乗せてもらって。

どこの国のお姫様より幸せです。


「葵」

耳元で愛しい声がして、我に返る。

一瞬の間だけ暁彦さんが僕のすぐ近くまで顔を寄せていた。

「あ、ごめんなさい、何度か呼ばれてましたか…?」

慌てて謝ってみるが。暁彦さんを好きになってからは、度々自分の世界が怖いと思う。

「勝手に自己完結するんじゃない。」

僕の失態には触れない暁彦さんは優しい。

…しかも僕の思い込みじゃないって言われてる?
「暁彦さ…ん?」
「そんなに愛とやらがほしいなら、他を当たりなさい。」

今度は本当に怒った声。
うわっ、違いますよっ、僕が暁彦さんの愛で満足してないわけがない…

「違いますっ…。僕は暁彦さんだけがいてくれればいいんですっ…」

必死でそう言うと、暁彦さんは目つきを柔らかくした。

「…何か食べに行くかい?」

「…はいっ。海鮮パスタ!」

とにかく手も足も出せないこの状況。早く貴方に触れたくて。

貴方の好きな海の幸が乗ったスパゲティのある、美味しいイタリアンレストランが近くにあったはず。

「…わかった。そこにしよう。」

貴方の好きなものを選んだからか、僅かに貴方の唇が弧を描く。

あ、…笑ってくれた…

それだけで僕は嬉しくて笑顔がこぼれた。

だってそうそう見せてくれないから。

貴方の笑顔が、僕の一番のご馳走――。

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