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波間に輝く君の音(吉加)
2008-01-08
車を飛ばす海岸線。白い波と光る水平線と、珍しく渋滞のない道路に気を良くして、私は運転席の窓を開け、左肘をついた。
直線道路の運転は片手で十分。波の音に耳を傾けると、どこからか弦の音がした。
私はすぐに近くに臨海公園があったことに気付く。
そのまま飛ばそうか考えたが、音色がやけに甘ったるい。
私は一人溜息を付き、右折のウインカーを出して公園の駐車場に入った。
駐車場の小石を踏みながら、車のロックと同時に歩き出す。
練習か。当然だな、コンクールも近い。
公園に入り、海を見渡せる場所に足を運ぶと、予想した通り金の髪がふわりと舞っていた。
柔らかで華やかで、繊細な音色。今日は調子が良いようだ。アイネ・クライネ・ナハトムジーク。
君は君らしい甘やかで人に好かれる賑やかな音を出すのに、当の本人はそれを良しとしないらしい。
まあ、よくあることだ。理想と自分自身の持ち味の違いがその人間を苦しめる。芸術家は誰しもその道を通るのかもしれない。
…私もよく、姉の音に憧れたものだ。
思いを馳せていると、曲は終焉を迎え、私は手を叩いた。
「…暁彦さん?!」
私を見つけるなり目を輝かせる君。驚きと感動と、ころころ表情を変える君に、つい笑みを漏らした。口元を手で隠し軽く咳払いする。
「休日も練習に励んでいるようだな。この前よりは聞けるようになっていた。まぁ、当然のことではあるだろうが。」
強めに言ってはみたが、やはり正面からは取っていないようだ。
「暁彦さんっ…、本当ですか…?嬉しいな…。あ、何故ここに?まさか僕に会いに…?」
「偶然だ。気分転換にここに寄ったまでのこと…。君に会いに来たわけではない。」
これ以上喜ばせることもあるまい。既に花が飛んでいるようにふわふわとした締まりの無い顔になっているので、私は真実は隠しておいた。
「あははっ…。何ムキになってるんですか?暁彦さん…。………え、もしかして本当に…?」
しまった、何も言わないべきだったか。人の感情…特に偽りには敏感に反応するこの衆議院の一人息子に見抜かれ、やはり来たのは間違いだったときびすを返す。
「あ、待って…暁彦さんっ…」
悲しげな必死の声を出して、慌ててヴィオラを仕舞う君。
少し胸が痛んだが、放置して車へと向かった。
運転席のドアに手をかけたとき、背後から強く抱きつかれる。
後ろの君の息は荒い。走ってきたのか。
「ごめんなさい、気に障ったのなら謝ります…。…嬉しかったんです、来てくれて…。…暁彦さんっ…。…冷たくしないでください…」
「離しなさい。」
すがりついてくる君を厳しく咎めると、渋々と手を離した。
その隙に私は車に乗り、君の泣き出しそうな顔を見上げる。
「私は教育関係者だよ?見えるところでは許し難いね。」
私が僅かに表情を緩めると、君は至極嬉しそうに微笑んだ。
「………はいっ」
君は水を得た魚のように生き生きとして、助手席に乗り込む。
全身から喜びを見せながら、いそいそとシートベルトを着ける君の様子を見ていると、独り言がこぼれた。
「社会に順応した君よりも、今の子供のような君の方が魅力的だがね。」
え?と私の言葉を聞き返して君がこちらを見たのを見計らって、その乾いた唇を奪う。
「んっ…、ふっ…」
直ぐに離すつもりだったが、甘い音色が耳に入り、とてもそんな気にはなれなくなった。
「んっ…、んぅ〜っ…」
鼻にかかった艶やかな声を聞きながら、人は来ていないし来ても車内なら直ぐに気づくまい、と周囲を目だけで確認する。
私も大概やられているなと気付くと、君は笑って腕を私の首に回した。
どこまで解っているのだろう。目の前で私のキスに酔っている君を見ると、どちらが君なのか解らなくなる。
「暁彦…さ…」
まぁ、どちらでも構わない。どちらも君だということには変わりはないだろうから。
問題は…、溺れる君相手にどこまで自分を抑えられるか…だろうな。
もう一度だけ外を見て、それから君の首元に、赤い薔薇の花びらを咲き乱れさせることにした。
「離しなさい。」
すがりついてくる君を厳しく咎めると、渋々と手を離した。
その隙に私は車に乗り、君の泣き出しそうな顔を見上げる。
「私は教育関係者だよ?見えるところでは許し難いね。」
私が僅かに表情を緩めると、君は至極嬉しそうに微笑んだ。
「………はいっ」
君は水を得た魚のように生き生きとして、助手席に乗り込む。
全身から喜びを見せながら、いそいそとシートベルトを着ける君の様子を見ていると、独り言がこぼれた。
「社会に順応した君よりも、今の子供のような君の方が魅力的だがね。」
え?と私の言葉を聞き返して君がこちらを見たのを見計らって、その乾いた唇を奪う。
「んっ…、ふっ…」
直ぐに離すつもりだったが、甘い音色が耳に入り、とてもそんな気にはなれなくなった。
「んっ…、んぅ〜っ…」
鼻にかかった艶やかな声を聞きながら、人は来ていないし来ても車内なら直ぐに気づくまい、と周囲を目だけで確認する。
私も大概やられているなと気付くと、君は笑って腕を私の首に回した。
どこまで解っているのだろう。目の前で私のキスに酔っている君を見ると、どちらが君なのか解らなくなる。
「暁彦…さ…」
まぁ、どちらでも構わない。どちらも君だということには変わりはないだろうから。
問題は…、溺れる君相手にどこまで自分を抑えられるか…だろうな。
もう一度だけ外を見て、それから君の首元に、赤い薔薇の花びらを咲き乱れさせることにした。
