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〜Seiso〜月森スカウト編。

 2007-12-12
月森ちゃんのアイドル事務所Seisoスカウト編SSです。


結局最後に出てくるのは彼。

ヤツは何でそう月森ちゃんが好きかねぇ。


そして加地が意外と出番多いなぁ・・・・

身近なお世話役として適任なんですよね。ほんとに橋渡し・・・・。


アイドル話楽しいです。書いてて。何やってもいいし、夢いっぱいパラレルいっぱいですから。


Seisoシリーズ気に入ったら拍手してやってください。

またそのシリーズで書くかもしれませんぜ。


俺はいつものようにいつもの学校からの帰り道を歩いていた。

今日も帰ってからヴァイオリンを弾こうと思っていると、傍に止まった車からスーツ姿のサングラスの男が降りてくる。

それだけでは何とも思わなかったが、その男は俺を呼び止めた。

『お〜い、ちょっと待て待て。・・・・お前さん、いい顔してるなぁ。』

俺は腕を掴まれて、歩みを無理やり止められた。

冗談じゃない。何なんだ、怪しすぎる。

そう思って振り返り、相手を思いっきり睨みつけた。

『何の用ですか。離して下さい。』

『悪いとは思うがなぁ、こっちも切羽詰ってんだ。お前さん顔もスタイルも良いし、ちょっと助けてくれんか?』

そう言ってサングラスでウエーブがかった長髪を束ねた男は、俺の腕を離そうとしない。


『俺は忙しいんです。貴方の様な不審な方に手を貸すほど時間は余っていません。』

『まぁまぁ、そう嫌な顔しなさんな。俺はこういうもんだ。ほれ。』


そう言って男は空いている方の手でスーツの胸ポケットを探り、長方形の紙を俺の目の前に出す。


芸能プロダクション Seiso

マネージャー兼専属講師

金澤 紘人


『・・・・・・・・・・はぁ。』

だからなんだと言うのだ。

芸能プロダクションのマネージャーが俺に何の用だ。


『お前さん、モデルやらんか?』

『・・・・・・・・・・はあ!?』


信じがたい言葉を聞いて、驚いて顔を上げると、男はにんまりと緩く笑っている。


『何も喋らなくていいし、とりあえずは笑わなくてもいい。黙ってカメラに視線向けててくれりゃ〜金がどっさり入るぞ。』

何だか怪しい撮影のスカウトマンの言葉に聞こえてくるのは俺の気のせいか。

『見たとこ芸術面は問題なさそうだしな、よし。お前さんに決定だ。社長命令で一時間以内にもう一人使えそうなモデル、スカウトして来いなんて話出たときは絶対無理に決まってると思ったが、そんなに探し回らなくてすみそうでよかったよかった・・・。今回は綺麗系らしいからな、お前さんぴったりだ。』

そう言いながら金澤という男は俺をぐいぐい引っ張り、自分が乗って来た車に連れ込もうとする。

『ちょっ・・・・、俺はまだやるとは一言もっ・・・・』

『駄目だ。時間が無いって言ったろ〜。大丈夫だ、悪いようにはしないさ。』

何を聞いても怪しく聞こえるこの男の言葉を信じられるはずが無い。

車に入るまいと突っ張って抵抗したが、抱え込まれ無理やり後ろの座席に放り込まれた。
とっさにヴァイオリンケースは庇ったが・・・・

『何を言っているんですか!!これは誘拐という立派な犯罪になりますよ?!』

俺の叫び声は車内に虚しく響くが、男は耳を貸さない。

慌しく車を発車させてしまった。

『降ろしてください!!訴えます!!』

『お前さん威勢良いなぁ・・・』


俺の言葉は右から左に受け流されてしまう。

これから起こる悲劇を、唇を噛みながら俺はただただ待っているしかなかった。






『あ、来た来た〜。君が金澤先生がスカウトして来た新人さんだね!僕は加地葵。よろしくね!じゃあ衣装に着替えようか。』

案内された場所で社長と名乗る男に面会し、頼み込まれ、今回だけならと渋々了承したが、目の前の加地という名の、男と思われる人の格好を見て、一気にやる気が失せてきた。

何故なら、加地という男は黒いフリルのついたものを頭に付け、フランス人形が着る様な赤い薔薇がポイントになった黒い女性物のドレスをまとっていて、足元も膝上までの黒いソックスに、黒いブーツ。

俺が目を瞬かせていると、加地は言った。

『あぁ、このカッコ?ゴスロリって言うんだよ。君は真面目そうだからあんまり知らないかもしれないけどね。』

『それは・・・・・女性の着る物じゃないだろうか・・・・』

まさか。まさかモデルとはこの格好で撮れと言うのか。


『あはは、そうだね。でも僕達が可愛い格好をするとファンの子が喜ぶからさ。売れるんだよね、写真集。』

そう言って目の前の女装に抵抗が無いような男は、純白でフリルがたくさん付いたドレスを出してくる。

ドレスの他にも彼の頭についているフリルの布と同じような形のもの。これは彼と違って白だが・・・

そして、白くて長いソックスに、厚底の白いつやつやした靴。


・・・・・・・・・・・もしかしなくとも。

俺にも人形のような格好をしろと言うのだろうか。


『・・・・・・・帰らせてもらう。』


くるりと振り返り、やはりろくでもない仕事だったと断る決心をしてその場を後にしようと思った。

すると、目の前を見知らぬ男が立ちふさいだ。

睨みを利かせると、男も凶悪と言っても間違いで無いほどの皮肉な笑いを向けて来た。


『逃げんのかよ。』

『・・・・誰だ、君は。君には関係無い。どいてくれ。』

『今回の撮り、イメージが違うから俺が参加できないってんで、人数が足りなくて急遽代わりが来たって言うから・・・・心配で見に来たが。・・・・ふっ、とんだ根性無しだな。まさか衣装を見ただけでびびって帰るようなヤツとは。名前が聞きたきゃ自分から名乗るのが礼儀だろ・・・?根性なしさん?』

『なっ・・・・。・・・・・・月森蓮だ。・・・・・・・・きちんと説明もせずに誘拐まがいのことをして連れて来たのはそっちだろう・・・?俺はこんなことはしたくない。』

声を荒げそうになるが、抑える。ここはことを荒げるより、すんなりと通してもらいたい。

『世の中、嫌だやりたくないって言って通っていけるほど甘くねぇよ。それともあれか。お坊ちゃまは甘い蜜だけ啜って、親に甘えてりゃ生きていけんのか。』

皮肉めいた言いように、頭がかっと熱くなるのを感じる。

こんな屈辱は初めてだ。

今までさまざまなことを言われたこともあるが、この男の言い方は癪に障って許せない。


『そんなつもりは無い。俺は俺の力で生きていく。甘い生き方をしているつもりもない。』

『どうだかな、守られて猫のように飼われてきた匂いがぷんぷんするぜ?この世界じゃお前みたいな甘ちゃんは生きて生けないかもな。衣装すら着れねぇんだから。』

『くっ・・・・・・。』


言葉が続かない。

とても、とても癪に障る。

今まで言われたことは見当違いだったり、只単に妬みや僻みだった。

けれど、この男の言葉は言い返せないところがあって・・・・

正論の部分があるのだろう。

しかし認めたくない。

こんな風に貶されて、俺に甘さがあると言われて、黙っていられるはずが無い。


この男には絶対に負けたくない・・・・!

『・・・・着ればいいんだろう。・・・・・・・それくらいのこと、なんでもない。・・・・君ができなくて開いた穴を俺が最後まで埋めるところをそこで見ているといい。』

睨みつけて言い返す。思ったとおり痛いところだった様で、男は一瞬悔しそうな顔をした。

俺は少し気分が良くなって先ほど聞き逃したことを聞いてみる。


『・・・・そうだ・・・。君は人に名乗らせておいて、自分は名乗らないのか。』

『・・・・・・・土浦。・・・・土浦梁太郎だ。』


しばらく俺を睨んでからそういい捨てた。




――それがこの事務所と土浦との最悪な出会い。


それから人形のような格好をして、加地に連れられ、同じような格好をした柚木さんに出会い。

3人で写真を撮られて、さぁ帰ろうと思ったら、

なし崩しでそのまま所属にさせられてしまった。



全て、全て彼のせいだ。


土浦梁太郎。


断ろうとしている時に限って、俺を留まらせたい誰かの策略なのか、彼の気まぐれなのか、彼は俺に先ほどと同じように逃げるのか、とけしかけて来て。

俺が嫌いなら、やめさせてしまえば顔をつき合わせずにすむというのに。

お蔭で俺は特技ヴァイオリンの、Seisoモデルとして活動を始めることとなってしまった・・・。








今思えば本当に、何もかもが無理やりな始まり。


後にまた俺が知らないところでアイドル路線に変えられてしまったようで、今度は無理やり踊りながら歌えと言われたり、ドラマや舞台に立つことになったり。

苦手だと言うのに対話形式の番組に出演させられたり。



とにかくめまぐるしい生活の変化に、俺は疲労困憊になってはいる。

けれど。今ここまできた状態で、自分にも彼にも負けるつもりは毛頭無い。





土浦梁太郎。

彼もまた同じようにここに無理やり連れ込まれ、俺より少し前にこの世界に入ったらしいが、そんなに期間も変わらないために比べられることも多い。

とにかく彼にだけは負けたくない。

歌やバラエティ番組の参加など、俺が苦手とすることをこなしていく彼を見ていると、そう強く思う。


いつか負け犬呼ばわりした彼を見返すべく、俺は俺なりにこの世界を勉強していこうと思う。

俺は俺なりに――







『勉強して身につけたいならさ、ちょっとは笑って欲しいんだよね〜月森君。せっかく猫耳メイドさんなんだからさ〜!』

『・・・・・・・。』




そうは思っても。

演出・カメラ総監督の天羽さんの言葉に、素直に頷けない自分がいる。



『はぁ〜、加地くん、上手いことやってね・・・君だけが頼りだよ・・・・。じゃあ撮影いくよー?』



カフェのセット、たくさんのカメラとスタッフ。

本日は俺と加地が猫耳メイドカフェというものを営業している設定の番組らしい。

俺は水色のメイド服で紺色の猫の耳と尻尾がついていて、

加地は青緑のメイド服、茶色の猫耳、尻尾という状況だった。


加地のように似合って、何でも着こなせて、それがさも当然のように受け入れられるのが羨ましい。

俺には無理だ。

きっと一生この格好に慣れるなんて無理だ。


『あはは、睨みだけは封印してね?月森。後は普通にしてれば大丈夫だよv』

『じゃあ本番いきまーす。3−2−・・・・・』


加地は俺に優しいと思う。

無理に笑わなくてもいいと言ってくれる。

けれど仕事。

これは仕事。

そう自分に言い聞かせる。



カランカランと入店のベルが鳴ると、用意されていた台詞を咄嗟に言う。

『『お帰りなさいませにゃん、ご主人様。』』

『おわっ・・・・加地は予想ついたけど、もう一人月森かよ・・・・・・』

『・・・・・・・・・・文句があるならずっと外出していてもらおうか。』


入ってきたのはなんと土浦。本日のゲストは彼だと言うのか!?

・・・・・・最悪だ。

『月森月森!!ご主人様追い出しちゃだめだよっ・・・・』


加地が横で焦って俺の袖を引っ張る。

そうだった、今は仕事で、睨みは厳禁だった。

例えこの男の前でも、メイドを最後まで演じきってやろう。


『失礼しました・・・・・にゃん、ご主人様。非礼をお許しください・・・・・にゃぁ。』


怒りを抑えながら頭を下げる。

堪えて、堪えて・・・・・・。俺はメイド・・・・・。


『お前こういうカッコ多いよな・・・。可愛くねぇ性格してんのに・・・・。こんな足出して、抵抗無いのか?』


土浦はそう言って、あろうことか俺の素足のスカートのすぐ下、つまり太ももを撫でた。

『ひぁっ・・・・』


俺は柔らかい土浦の手のひらがくすぐったくて恥ずかしくて、それから変な声を出してしまって、後ろに飛び退いた。


すると、ガタンと後ろの丸いテーブルとイスにお尻の辺りがぶつかり、そのまま勢いが止まらず寄りかかったテーブルが後ろに傾く。

『ぁっ・・・・』

俺はバランスを崩し、後ろに身体が倒れていくのが解った。


倒れる――!!


バランスを失う恐怖と、これから起こるだろう痛みを予測して、目を閉じた。

瞼の裏で、加地と土浦が俺を呼ぶ声が聞こえた。









けれど。少ししても身体が傾いたまま、痛みは訪れない。

しかも何故か浮いたように身体が宙に止まっているのを感じる。

不思議に思って目を開けると、10cmくらいの距離で土浦の見知った顔があった。


『!?・・・・・・』


声が声にならなくて、俺は何故か顔を真っ赤にした。

背中には土浦の腕の感触がある。


この状態は・・・・・


何だ・・・?


俺は・・・・・助けられたのか・・・・・?


土浦に抱きしめられていることが信じられなくてしばし固まる。


『おまえ・・・・・っ・・・・、いつまでそうしてんだよ!早く起き上がれっ・・・・・こっちは変な体制で苦しいんだからな。』

そっぽを向いた土浦の言葉に、土浦の体制を確認してみると、斜めになったままの倒れる直前の俺を支えるために片手で俺を抱き、もう片方で斜めに倒れてしまったテーブルを支えにして無理な体制をとっていた。

『・・・・・・あぁ・・・・』

なんだ。別に俺を心配したわけではないのか。

彼の素っ気無い態度に自分の頭が冷えていくのを感じた。

彼のそういう素早さには感心する。俺が仕事で使えなくならないよう、自分で被害を抑えたということか。

俺は腹筋を使い体制を立て直し、彼から素早く離れる。

『助けてもらったことには礼を言う。・・・・・だが、今の原因は明らかに君だろう。』

先ほどのことを思い出し、つい口をつく咎める気持ち。

けれど、食いかかってくるはずの彼は、何だか寂しそうな色を一瞬だけ見せた。


『あぁ・・・・・。悪かったよ。だからちゃんと助けただろ?もうお前なんかに手は出さないから安心しろよ。』


ふいと横を向いてテーブルとイスのセットを直すと、土浦はぶっきらぼうに言った。


彼らしくない雰囲気に疑問を持ったが、話の内容を頭の中で反芻すれば、俺の中には冷えたものが流れてきた。



だからちゃんと助けた・・・・。

やはりそうか。手を出した償いで助けたのか。

結局は自分の満足のためか。


・・・・・・・・そうでなければ俺がどうなっても構わないと言うんだな。


・・・・・・そうだろう。当たり前だ。


彼と俺はそういう関係だ。



『何だよ、文句あんのか?そんなに俺に助けられたくなかったか。・・・・そうだよな。お高くとまった月森様は触れられることすらお嫌いだもんな。』


違う・・・・

違うっ・・・・



何が違う・・・・・?


『助けられたことに関して礼は言っただろう。二度とセクハラ行為はしないでくれ!!!』

『んだとっ!?』

『月森!!ど〜ど〜。』




馬を大人しくさせる様に加地は俺を後ろから抱えた。

加地の腕に包まれながら、何が違うんだろうと俺は必死に考えていた。


触られて熱くなった身体。

彼の皮肉に冷たく軋む心。

冷たくなったかと思うと何故か怒りが込み上げた。



俺がおかしいのは彼のせい。

全部全部彼のせい。



だから仕事中でも冷静でいられない。

何もかもめちゃくちゃになってしまう俺の思考。

こんなに彼に掻き乱される俺は、一体どうしてしまったんだろう。



俺は最近ずっと、

この絡まった糸が解けるための方法は何だろうと、ぐるぐるぐるぐる考えている。


この迷路を抜けた先では、俺はどうなってしまうのだろうか。


もとの冷静な自分に戻れることを願って、天羽さんの撮影再開の合図を聞いた。






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