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その瞳に魅せられて〜一瞬の勝負〜
2009-05-29
「ほら、助けてって泣いてみろよ。許してやるかもしれないぜ…?」
生暖かい声で男に耳打ちされ、生ガキは顔をしかめた。
卑劣な物言いを、大人しく聞いている奴ではなかったらしい。生ガキはリーダー格の高校生の足を思いっきり踏んでみせた。
「…い゛っ…」
「F*ck you!誰が言うかよ。ゲス。」
「は?何カッコつけてわけわかんねーこと言ってんだよ!」
…挑発してどうする!
俺は生ガキが英語で何て言ったかまではわからなかったが、相手を罵ったことくらいは解る。余計生ガキの立場が悪くなるのは目に見えていた。
案の定、腕を更に締められて、生ガキは苦しそうに眉を寄せながら空を仰いだ。
「っ、…!」
「そんなに折られてぇなら、追ってやろうか?今ここで!このか細い腕を!」
俺らから生ガキまでの距離は4メートルくらいある。近付いたら先に生ガキに危害が及ぶだろう。
まあ俺や生ガキの友人が近付こうが近付くまいが、どっちみちいたぶられそうだが。
「…っ、!!…」
ギリギリと背中側で、本当に折る気なのか締め上げられていく、生ガキの腕。
関節と筋肉は悲鳴を上げているだろう。
苦痛と、少し恐怖があるんだろうか、
声は堪えているが、生ガキの顔が歪む。
…時間がねぇ。早くしないと…
だが、どうする?近付いたら生ガキがアウト、近付かなくても早くしないと…
…どうすればいい!?
緊迫した事態に焦りを感じながら、俺は手だてを探した。
すると、ゲームセンター内にある、一つのゲームが目に入る。
「桐也!……お前ら、いい加減にしろよ、桐也を離せ!」
生ガキの友人がそのつもりではないにしろ、相手の気を引いてくれているうちに、
俺は、増えてきた野次馬に紛れて、そのゲームの近くに行った。
…早く。早くしないと、アイツの将来が危ないかもしれない…。
生ガキの状態を気にしながらも、俺はそのゲームの周りに張ってあるネットを密かに潜る。
俺は、右肩に背負ったヴァイオリンケースの肩ベルトを、片手で握り締めた。
…痛めたら、…折れたりしたら、取り返しがつかない。
俺は一つの決心をして、そのネットに囲まれたゲーム場に転がっていた、ボールを足で蹴り上げて、手に乗せる。
ナインシュート、と書かれたそのゲームはテレビバラエティなどではメジャーだが、ゲームセンターでは珍しい。
9つに分けられた四角いボード、その9つには数が書き込まれている。
本来はその数が書いてあるボードにボールを当てて遊ぶゲームだが、俺はそのボールを持って、緑色のネットをまた潜り、外へ出た。
外ではざわつく野次馬。
と、その時、生ガキの友人が火がついたように叫んだ。
「止めろ!もう止めろよ!桐也がお前らに何したって言うんだ!」
2人の不良高校生に阻まれ、生ガキの友人はリーダーに捕まっている生ガキに近付けないようだった。
「こいつ、声も出さないで生意気だ。おら、許して下さいは?」
リーダーの高校生は生ガキの腕を捻ったまま、後ろに引っ張り、生ガキの背を思いっきり前に蹴り飛ばした。
「っ、あ゛あ゛ああぁっ…っ」
生ガキの腕の骨が、筋が、筋肉が限界をさ迷う。
今まで声を極力抑えていた生ガキも、流石にもう理性で堪えられなくなっていた。
生ガキの上半身はガクリと前に倒れ、腕だけが後ろに引っ張られたまま、張り付けにあっているような格好になる。
「おい、痛いか?あ?」
生ガキを捕まえている高校生は、生ガキの両腕を片手で束ねて持ち、生ガキの前髪を乱暴に捕まえて、顔が見えるように上を向かせた。
前髪をむしるように掴まれ、顔を起こされた生ガキは、辛そうに薄目を開ける。
「痛めつけたら良い声で鳴くじゃねぇか。ん?…よく見たら目ー潤んでるな。ハッハ…可愛いねぇ。」
ヘッヘッヘという嘲るような薄汚い笑いをするリーダーの奴は、生ガキをおもちゃだとでも思っているのだろうか。
強い怒りを感じながら、俺は野次馬を掻き分け、それでも奴らに気づかれないように、サッカーボールを地面にそっと置いた。
「ほら、もっと泣き顔見せろよ。」
高校生は生ガキの顔を見えるように上を向かせ、自分はいやらしく覗き込んだ。
その瞬間、生ガキは唾を高校生に吐きかける。
「…人間のクズ、…だな。」
生ガキはそう斬りつけて、薄く笑った。
最初呆然としていた高校生だったが、
みるみるうちに顔は赤くなり、声を荒げて、生ガキの腕を今度こそ本気で折ろうと、生ガキの腕に手をかける。
俺はボールより少し後ろに下がり、目標を見据えた。
一瞬が勝負。
「生ガキ!頭下げてろ!」
ミスキックは許されない。
俺はボールに向かって勢い良く走り出し、利き足を後ろに上げ、狙いが外れないよう、インサイドで、ボールを少し高めに思い切り蹴上げた。
