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君と過ごす大切な日々4
2007-11-07
すっかり更新が滞っていたのは、携帯でブログ更新しようと思ったら邪魔されて、書き直しに2回ぐらいなった(保存ができない)のでちょっとショゲてたことと、邪魔されないよう携帯のメールで打ってたのでなかなかブログ更新にならなかったため。
さて、言い訳はこの辺で、君と過ごす大切な日々4スタートです。
爽やかな月森らしい香りに包まれて、土浦がブレザーに手をかけようとしたそのとき、月森がはっ、と何かを思い出したかのように顔を上げる。
『そうだ、…土浦。今日が何の日か…まだ言っていなかったな。』
『え!?…あ、あぁ。そうだったな…、はは、は…』
純粋無垢な月森の反応に行き場のなくなった手を、土浦は髪をかき上げることで誤魔化した。乾いた笑いが思わず出る。
まぁ、確かにそういう話だったな…
月森の香りに惑わされ本来の目的を見失ってしまうところだった。
一方その様子を見た月森が、君のそういう男らしい仕草が好きなんだ、と密かに思っていることは土浦は知るよしもない。
月森はゆっくりと言の葉を紡ぎ出す。
『今日は、…君と俺がつき合いだしてから丁度一ヶ月なんだ。』
『……へ?』
思わず変な声が出た。それって、さっきの今日は何の日ってやつの答えなんだよな…?
『だから、先月の今日つき合い始めたんだ…俺達は。』
『どういうことだ?…そんな事でお前泣きそうになってたのか?』
『な!?…そんな事だと!?だから君は覚えていなかったのか!?』
土浦の言葉に、月森はショックで目を見開いた。一転して二人の空気は張り詰める。
『だってお前、付き合って一ヶ月って…。さすがに女々しいだろ。』
土浦はそんなことで騒ぐなんて信じられないと言いたげに眉根を寄せた。
次の瞬間。
バシッ…と乾いた音が屋上に響く。
一瞬左耳がキーンと鳴った。何が起こったのか解らなかった土浦だが、段々と左の頬が熱く痛むのを感じて、叩かれたんだと理解した。
土浦の左の頬には月森の赤い手形がくっきりとついている。
月森は悲痛な涙を流して、恋人の筈の相手に理解してもらえない自分の心に苦しんでいた。
『好きな人と一ヶ月恋仲でいられることは喜んではいけないのか!?恋人になって一ヶ月経ったら、そのことを祝ってプレゼントを渡すものだと聞いた!だから今日渡そうと思った…!!なのに君は女々しいと言う…。俺は…つき合うことなど初めてで…!!何も解らなくて…、でも何か渡そうと…。それは女々しいのか…?俺だって最初は知らなかったが…、そういうものだと聞いたから…俺は君との一ヶ月を振り返って喜びたいと…、そしてこれからを…』
『わかった。もうわかった、月森。俺が悪かった。…深くも考えずに女々しいなんて言って…ごめんな。』
涙でぐしゃぐしゃになった月森の顔を、土浦は優しく抱きしめ、自分の肩口にうずめさせた。
土浦の肩に顔を押し付けながら、くぐもった声で月森は言う。
『君には…どうでもよくて…、迷惑なことだっただろうか…』
土浦は月森の涙でブレザーが濡れることになっても、気にとめなかった。
それよりも今は、この恋人が愛おしい。
『そんなことないさ、迷惑なんかじゃない。…祝おうぜ、…付き合ってから一ヶ月記念日。』
自分で言って恥ずかしくなり、土浦は照れ隠しに月森の頭をクシャクシャ撫でた。
土浦に抱きついている月森も、思いが伝わったことを喜び、照れながら極上の笑みを見せる。
そして噛みしめるようにゆっくりと伝えた。
『君が好きだ。…誰よりも君が好きだ。』
うっとりとそう言われて、土浦はたまらず愛しい人の瞼や頬にキスを贈る。
燃えるような夕日の中、降るような甘いキスが落ちる。月森は、ん…、と声を漏らして目を閉じた。
土浦が最後に形の良い唇に優しく口付けて、離すと同時に二人で瞳を開ける。
『俺も好きだ。誰よりもお前のこと…思ってる自信がある。』
そう言われて、月森は恥ずかしそうに、でも嬉しそうに微笑んだ。
そして、戸惑いがちに背伸びをしながら、自分から土浦の唇に、ちゅ、と口付けた。
『俺は…とても幸せ者だ…。』
こんなに近くに好きな人がいて、思いを確かめあえるのだから。
付き合って一ヶ月。一日にこんなにキスしたのも初めてだが、月森からのキスも初めてだった。
月森からされた決して上手くはない、小鳥のような一瞬の口づけに、土浦は舞い上がる。
つ、月森から…、キスされた……!!
今の雰囲気ならもう手出しても構わないだろ、と思い土浦は月森を抱き寄せた。
ところが、あ、と言って小鳥は土浦の腕からスルリと逃げてしまう。
『すまない、…プレゼントを渡すのを忘れていた。』
『…っ。ーーそうだな………。』
月森はいそいそとプレゼントの入った鞄を取りに行く。
一方土浦は、なんだかもう泣きたい気分だ、と本日二度目の肩すかしに眉根を寄せる。可愛い恋人の無意識の焦らしに耐えていた。
あんまり焦らしてくれると、次にキた時俺の中の猛獣が火を吹くぞ…?
すでに獲物を狩る目をしながら月森を横目で見る。
月森はといえば、そんな事は何も知らず、鞄を開け、中から紙を取り出して土浦のところに戻って来た。
『君に渡したいものは…これだ。』
土浦は何とか怪しまれないように、普段通りにしようと努める。
『あ…ぁ。ありがとう。スコア…か?』
土浦が目を落とす。月森から手渡された紙は、何かの曲が綴られていた。
『エドガーの愛のあいさつ…ピアノ伴奏譜か。』
『君らしくアレンジを加えてくれても構わない。二人で語れる曲にしたい。』
そう真っ直ぐに月森が言うと、
『了解。じゃ、自由に付けさせてもらうぜ。』
何かを企んだ悪戯っ子のように笑い、土浦は月森を見上げた。
愛のあいさつ。
一ヶ月経ってやっとお互いの愛が見えてきた俺達にはぴったりの曲だな。
好きな相手のことだけを考えて、好きな相手と奏でる曲…
出来上がりがどんな風になるか楽しみだ。
『君とこの曲を奏でたかった…。短い曲だが、相手への愛というものがとても…凝縮されていると思う。』
『メインの旋律も好きだが、後半がダイナミックに展開するとこも良いよな。』
どちらともなく顔を見合わせ、くすりと笑う。
一ヶ月前までは、こんなに和やかに一つの曲について語れなかっただろう。
それは二人の心の距離が間違いなく縮まった証拠。
『お前変わったよな、こんな曲渡してくるなんて。少し前だったらもっとこう…超絶技巧なパガニーニあたりかと…』
それを聞いて月森は首を傾げる。
『そうだろうか…。確かに技巧的なものは己を高めるために弾くことは多いが…。今は君とこの曲が弾きたいんだ。』
少し前の俺だったら…、確かにこの曲を選んでいないかもしれない。これは君と深く関わったことで起きた変化…なんだろうか。そう、月森の中でも感じていた。
『でも、そう言う君だって少し前だったなら、こんな曲弾けるか、と突き返してきそうだ。』
『…、確かに、つき合う前なら言ってたかもな。』
ありありとそんな場面が浮かんで、土浦は苦笑する。
その表情を見て、つきん、と月森の胸が痛む。
本当は今日渡すのも不安だった。
この一ヶ月が君にとってちっぽけなことで、俺のこともちっぽけな関係だと考えていたなら、このスコアは突き返される可能性があった。
今日が何の日か覚えていなかった土浦は、その可能性があった。
覚えていないと知って、気持ちが先走って。俺はそんなに好かれていないかもしれない、君にとって俺はただの恋人と言う名目だけの人間なのかもしれないと、そう思った。
その瞬間、もう傍にいる意味が解らなくなって苦しくて、涙が溢れた。
思いを気づいて受け取ってもらえないことはどんなに悲しいことか、今日初めてわかった気がする。
本当に、俺は変わったな。君の行動や発言に一喜一憂するなんて。絶望、喜び、怒り…こんなに沢山の種類の涙を流した日も初めてだ。
そして、自分から君にキスをしたのも。
気恥ずかしくて、逃げてしまったけれど…。
月森はチラリと譜読みを軽くしている土浦を見る。
もう一度抱きしめてくれないだろうか。そうしたら、今度は逃げないで君を受け入れたい。キスも沢山して欲しい。それから…
月森の視線に気がつき、土浦は顔を上げる。
目が合っただけで月森の顔が赤くなるってのは気のせいだよな…。
夕日のせいだろう、と結論づけて土浦は気になっていたことを月森に尋ねてみる。
『なあ、お前に一ヶ月たったらプレゼントやらなんやらして祝うもんだって言ったの…誰だ?』
月森にそんな色ボケな記念日を吹き込んだ相手を知りたくて、聞いてみた。
『同じクラスの内田という友人だ。最近普通科の女子とつき合いだしたようで、よく彼女の話を俺にしてくる。彼が祝ったら喜んでもらえたと言っていたんだが…』
…内田〜〜!!色ボケを月森にまで感染させるな!ってか頼むから恥ずかしいようなこと、さも当たり前みたいに教えるな!!
土浦の怒りの声は帰宅済みの内田に届くはずもなく、月森は土浦が肩を震わせだしたので不思議そうに首を傾げた。
