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Secret time1〜続Seiso番外編〜

 2008-11-04

一面の、草原。

緑や黄緑、深緑がさわさわと囁くように靡く。

俺は沢山の草に囲まれていた。

まるい葉、細長い葉、様々な種類の、雑草のようだった。

ただ一つ、普通とは違うのは。

その草の背丈はどれも俺の目の高さより高く、
草の一番空に伸びる先を見るには、俺は少し上を向かなければならないということだった。

お蔭で周りの様子はさっぱりわからない。

さわさわ、さわさわと草が会話しているだけだった。


…ここはどこだ…?


不安になって、草の根をかきわけ、少し進んでみる。

けれど、草の向こうは草ばかりで、景色は一向に変わらない。

現在位置が全く分からない上に、どうしてこんなに高い草ばかりの場所にいるのかすら、俺には分からなかった。

…誰か…、いないのか…?

心細さで声を出したいと思ったが、声は上手く音にならなかった。

…誰か、

…誰か…!

どこへ行けばいいのか分からなくて、
どうすればいいのかも分からなくて、

周りに道を見つけようと見回し、

見つけられなくて、途方にくれて、

助けを呼ぼうかと考えたが、

また言葉にならなかった。


俺は悲しくてその場にうずくまる。



土の匂いがする。

いつもは感じることの殆ど無い、土と草の匂い。
いつもアスファルトや建物に囲まれているから、この匂いは慣れていない。

怖い。
怖い…。

身を縮めて、耳をそば立てた。

怖いものが襲ってくるような気がした。

…駄目だ、強くなくては…

見ず知らずの世界でも、生きていかなくては…

瞳を瞑っていると、地面が揺れ、草を掻き分ける大きな音がした。

大きな、俺よりもずっと大きな、何か、がやって来る。

俺は空を見上げた。

大きな脚が見えた。

物語で見るような、巨人、とはこんな様子だろうか。

余りに驚いて足がすくみ、逃げるのが一瞬遅れてしまった。

俺は呆気なく巨人に捕まった。


脱出を試みるが、その手は俺を決して離そうとはしなかった。


「月森!」

手の主が俺の名を呼んだ。

俺は知っている…

この声を、
この匂いを。

俺は見上げる。

…土…浦?

知っていた。
俺は全身で感じた。

俺の呟いた声は、ピ、という音にしかならなかった。

それが今の俺の精一杯だった。


「やっぱり月森だな。…お前、兎なんかになってたら、悪い狼に喰われるぞ。」

大きな指で、つんとつつかれた。

俺は何を言われているのか解らず、数秒固まった。

うさぎ…?

誰がだ…?

俺が…か?

自分の腕を見た。

真っ白な毛皮で覆われていた。

そう言えばいつもより、音が大きく聞こえたり、沢山の匂いの情報が入ってくる気がする。

…俺は兎だったのか…?

俺は兎だった。

優しく、そっと愛しむように土浦が俺の額や背を撫でる。

「月森…、いつも俺のそばにいろって言っただろ?」

大きな土浦の頬を体に感じて、俺はふと疑問に思った。

…何故、この姿で君は、俺だと分かったんだ…?

土浦、そう声に出したつもりだったが、
ピ、ピ、と音が鳴るだけだった。

「お前、鳴き声可愛いな。」

土浦は面白そうに笑うだけで、俺の意志は伝わらない。

「なあ、月森、」

…もどかしい。

「俺はお前が何だって、」

…伝えたいのに。

「すごく…、すごく好きなことは変わらないからな…」

…俺も…

「月森…。」

…愛している…。

そっと土浦の唇に、俺の口を押し当てた。



少し冷たい風で、目が覚めて、

切ない程のもどかしさに襲われた。

…ここは…?

見たことのある、だがどこか違和感のある景色に、俺は混乱した。

そう、天井やベッドは俺の部屋のものによく似ているが、

明らかに匂いが違った。

…匂い。

先ほどのは夢だったのか。

かすかに覚えている。
この匂いにひどく安心したことに。

かかっている布団を首まで持ち上げる。

…君の…匂いがする。

太陽のような、暖かく優しい匂い。

君に抱かれているようで、とても安心する。

まだ覚醒しきらない頭で、俺はシーツに頬を擦り寄せた。

安心したせいか、再び眠気が襲ってくる。

…どうして…

ここは…

以前来たことがある、土浦の部屋のような気がする。

…何故…?

うつらうつらと目を閉じたり開けたりを繰り返しながら、夢の中に誘われないよう必死で考えた。
思い出そうとして口に出してみる。

「昨日は…、確か…」
「俺に、チョコと一緒に美味しく食われた。…忘れたのか?」

意地悪なテノールが俺の言葉を遮った。

顔を向ければ、スーツ姿の土浦が、色気のある笑みを浮かべながらベッドの横に立っている…ように見えた。



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