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aqua panorama

 2008-09-07

水色の空間、赤や黄の鮮やかな魚達。

魚は決して止まることは無く、泳ぎ続けて。

水の流れは静かな音楽を生み出し、
目にも耳にも
心にも
静寂を与える。

俺は、目を閉じれば水の中にいて、魚と同じように泳いでいるような気分になる、この場所が好きだった。

俺が大水槽の前に立っていると、目の前を大きなエイが過ぎていく。
アジがキラキラと銀に青に光りながら、群を作り、
どの魚も思い思いに泳いでいた。

静かな静かな青。

人混みに疲れた俺は、時を忘れてその場に立ち尽くしていた。

「蓮、そんなに気に入ったのか?大水槽。」

ふと我に返る。

俺の斜め後ろから、胸に響くテナー。

一番好きで、
一番落ち着かない声。

軽く声の方に振り返り、素直に感想を述べた。

「あぁ。」

今日は、俺が前に一度行きたいと言ったのを覚えていてくれたようで、土浦が水族館に行こうと誘ってくれた。

世間的にはそうは見えないだろうが、好きな人物と二人きりで出かけるのだから、デートなのだと思いたい。
だったらいいと思っている。

振り向いた先には、背の高い君が青い光を浴びて、深く穏やかな眼差しで俺を見ていた。

俺はそのどこか大人びた表情を直視出来ず、少し目線を外す。

頬が、顔が熱い。

君と二人きりで水族館に来るなど、考えたこともなかった。
ただ、行ってみたいところはあるかと聞かれて、思いついたのが水族館だったのだが…
まさか次の日に2人で来ることになるとは。

休日のため水槽を眺める客が沢山いる中で、俺はなんだか恥ずかしくなり、俯く。

梁から逃げるように少し後ろに下がると、腕が冷たい水槽のガラスに触れた。
けれど体は、梁に背を向けることはできない。

いくら水槽の魚を見ようと思っても、君の視線に縛られて、君から逃れることは無駄な足掻きだった。

…あぁ、俺の熱を冷ましてくれ。

君はそんなにも余裕があるし、2人きりでも周りを気にする様子はない。

俺ばかり恥ずかしくて、どうしようもなく嬉しくて、熱くて。

人混みで。
男2人で水族館で。

周りから見て、本当におかしくないだろうか、
不自然ではないだろうか。

先ほどから熱すぎる自分の頬に、一抹の不安を感じる。

水槽に背を付けたまま、顔を上げられないでいると、梁が不意に口を開いた。


「…魚だらけで気に入ったのか?…そろそろイルカショー始まるから、行かないか?また後でここに戻って来よう。」

梁の、またここに戻ってくるから、という心遣いが嬉しい。

だが、俺の言葉は勝手に滑っていった。

「俺は…、…まだここにいたい…」

…何を言っているのだろう、子供のようだ。
梁を困らせるだけだということはわかっているのに、
何故…?

訳が分からなくなっている俺を見て、梁は案の定顔を曇らせる。

かと思うと、一気に俺と梁の距離がゼロに等しくなった。

梁が俺を包む…いや、覆うように、水槽の硝子に腕をついていた。

「りょ、っ…」

威嚇するようなものではなく、まるで俺を魚や周りにいる客から隠すかのように、梁の腕はゆっくりと優しく俺を囲む。

至近距離から吐息が聞こえ、ゾクゾクと俺の背は震えた。

熱い。心臓が、壊れそうなほど早鐘を打つ。

何なんだ、急に。

梁の腕に置いた手に少し力をいれると、苦しそうに眉を歪める君がいた。

「…そんなにここが…、いいか?…魚や水が…。……連れてかれちまいそうだ…。」

「…は?」

梁からてっきり我が儘を言うなと諭されるのかと思ったのだが、何やら違うようだ。

聞き返すと梁は小声で言い直した。

「…お前が水や魚に魅入られてるみたいで…、帰って来なくなるような気がして…」

そこまでボソボソと言うと、梁は勢い良く顔を俺と逆の方へ逸らす。

「悪かったな、馬鹿らしい話で。」

…どうやら梁も照れているらしい。

「…梁。…馬鹿らしくはない。…俺は…水を見ると心が穏やかに、静かになるから…。…そう見えだのだとしたら、すまない。」

「そうか、ホントに好きなんだな、水族館。…ならいいさ。」

梁は何だか安心したように笑い、俺をそのまま軽く抱きしめた。

「?!!…りょ、」

流石に人がいる中で、それは危険だろうと抵抗しようとしたが、その前に梁がサッと腕を解く。

そして、頬が再び熱くなった俺の手を握り、歩き出した。

「ほら、ホントにショー間に合わなくなるぞ。」
「あ、ぁ…」

人前で堂々と大胆なことをしてくれる恋人がいるため、俺の血流は頭まで鳴り響いている。

…俺は、君と2人で、静かにいられる場所にいたかったのかもしれない…
そう思ったが、今は良い。
歩き出した君と2人で、
また違う今日を、俺を、

君を…知るのだろうから。


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