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Seiso〜恋は薬無き病〜

 2008-07-03

「無理やり言わされただけだ。俺は…月森なんか好きじゃない!」


俺はぐるぐると、目眩を感じた。
本人の口から好きじゃない、と聞いて必死に本心ではないと心に言い聞かせた。

売り言葉に買い言葉だ、そう思ってはいるんだが、
一度舞い上がった感情が突き落とされた形になり、指先が震えていた。

少し前の、喧嘩腰で何を考えているのかわからない土浦と一瞬被り、ズキンと胸が痛む。

とてもすれ違って傷つけ合った日々。

なんだかあの日々が戻ってくるような気がしてしまう。

ぐるぐると思考は渦を巻いていた。気持ちの渦に、俺は酔ってしまいそうだった。

舞台裏に連れて行かれて、土浦は俺を抱きしめて、
声を聞いて、
やっと俺は現実に戻ってくる。

「ごめん、…月森。嫌いなんて嘘だ。…あいつの言葉にカッときて…ほんとサイテーだ…。」

必死な土浦の声。
眉は苦しそうに歪められて。

「嘘…なのか?…俺は…、俺は…君を好きでいても…いいのか?」

まだ好きでいていいのだろうか、好きでいることは許されるのだろうか…

腕はみっともなく震えているが、俺にはどうすることもできない。

勢いだったとしても、本気ではなかったとしても、例え番組上だとわかっていても…辛かった。
君に嫌いだと言われることが、こんなに苦しいことだとは思わなかった…。

そう考えていると、土浦は蜂蜜色の瞳を見開く。

「!?…、当たり前だろ?…今更お前以外を好きになんかなれるかよ…っ。」

引き寄せられて、
強く強く
その腕に抱かれた

「土…浦…。そうか…よかった…。」

胸がじんと熱くなる。

俺はこのまま、君を愛していていいんだな…

きゅうと土浦の背にすがりついた手は、もう震えてはいなかった。

俺以外を好きにはなれない、そう言われて、…溶けてしまいそうだと思った。

…それでもいい。

一瞬、そう思った自分に気づいて、何だか恥ずかしくなってくる。
それを誤魔化すように、俺は別の話題を振った。

「…だが…その、君は何故、ニクスさんにはあんな態度をとるんだ?」

そう、まだ仲直りができても、原因を取り除けたわけではない。
だから俺は、さっきから気になっていた原因を知ろうと聞いてみた。

土浦は彼にしては珍しく、言いにくそうにしながら口を開く。

「そ、…れは、…。…あの人お前に変な注文出したり…、お前のこと好きなんじゃないかって…」

戸惑いながらもそう言った
土浦。

…今、なんて言った?俺のことをニクスさんが好き…?

「は…?いや…それはないだろう。逆に彼は、舞台上での振る舞い方といい、ファンへの対応といい、俺達が見習わなければならない所がたくさんある人だと思うが。


土浦の言葉に驚きながらも、俺は率直に言葉を返す。

「……もっともだな。…だが、明らかにお前にちょっかいかけすぎだろ。…アイツが気に入らない。」
「何故だ…、ファンサービスだろう?」
「どうだか。なに考えてんのかわからない感じだしな、お前に少なくとも興味は…」

俺は、
俺はニクスさんの人柄が、どうやら苦手な人の部類ではない。
だからそんな風に君に言わないで欲しいんだが…
どうしたらいいのかわからずに、口論になってしまう流れを止められないまま、俺の眉間の皺が刻まれていった。

「私は、確かに蓮君に好意はありますが…、それは人としてです。…私には、他に愛しい人がいますから。」

不意に低く響く声が聞こえて、俺たちは思わず会話を止める。

「!?…、何時の間に後ろに…?」

驚いて振り向く土浦に、ニクスさんは怒るでもなく、静かに笑みを浮かべていた。

「ニクス、さん…」
「不快な思いをさせたのなら、すみません。レイン君に二人に謝ってこいと怒られました。あなた方の仲を悪くするつもりはなかったのですよ?」

すまなそうに話すニクスさんに、流石の土浦もすぐに食いつくことはしないようだった。

「…あんたは…好きな奴がいるんだな…?」
「ええ。」

探るように言葉を紡ぐ土浦に、ニクスさんは笑顔で静かに即答する。
俺はただ、見守っていることしかできない。

「なら、コイツにちょっかい出さないでもらえますか。」
「…そんなに気になったのですか?」
「っ…!?」
「あなたこそ、彼の…何なのですか?」
「な、…にって…」

追い詰められる土浦が言おうとする言葉が気になって、俺は体が熱くなるのを感じた。

…な、に。

俺は君にとって
どんな存在なんだ…?

ニクスさんの問いかけに、土浦の口はパクパクと空回りをするばかりで、音は聞こえない。
そのうちに、俺達を呼ぶ火原先輩の声がした。

「土浦ーっ、月森くーん!CMあけるよー!」

…早く番組が終わればいい。

何が起こるかも知らず、俺は只ただそう思っていた。

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