Ads by Google

 --------
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
カテゴリ :スポンサー広告 トラックバック(-) コメント(-)

月夜のおもい

 2008-06-04

惺琳樺ちゃんの加地モノローグに影響されて、また書いちゃったりしました。

加地くんに合わせて恋愛発展前。加地くんのモノより前ですかね。


では、お楽しみください。

あ、そうそう、グリーンスリーブスをBGMでかけながら見ることをお勧めしますvv



人の居なくなった校舎に、闇ばかりが広がる。

昔馬鹿な先輩が、辺りが暗くなるこのくらいの時間に、青春の思い出に花火をやろうと言い出したことがあった。

馬鹿らしいので真っ先に参加を断ったが、コンクールの打ち上げだから強制だと言われ、他のコンクールメンバーと一緒に屋上に無理やり連れ込まれた。

要するに学校が意外と好きなあの人は、学校でちょっとした馬鹿騒ぎをしたかったらしい。

教員達が全員帰るまでやり過ごし、そこから近隣の住民に通報されるまで、屋上で思い出を作った記憶が、今でも残っている。



一瞬、何色にも変化する光が鮮明に蘇って来て、私はとっさに目を瞑り、目頭を押さえた。

…仕事が終わらなかったためこの時間になったが、疲れが出たのだろうか…。

この私が、あの出来事を懐かしいと感じるなど、どうかしている。


軽く溜め息を吐きながらそう考えた矢先に、微かに音が聞こえた気がした。

音。

それはこの学校が響かせているとしか思えない。
近くから聞こえるものでなく、天から聞こえてくるような。

全身が一瞬震え、心の臓まで届く。

そして、それはよく聞けば旋律だった。


微かだが、旋律ははっきりと聞き取れる。

美しいが、物悲しい旋律。

儚く、けれどどこまでも柔らかい。

高いが、男の声だ。

私は変なものは見えるが、幽霊の類は見たことがない。

だから不思議と恐怖や不気味さを感じなかった。
ただ、こんな時間に誰か残っていたのか、と思い、立場上見逃す訳にはいかないと、音の根源を探しに行くことにした。

上から聞こえるのだから、上にいるのだろう。その原因は。

そう思うと私の足は階段へ向かった。



―Well, I will pray to God on high
that thou my constancy mayst see



階を上がれば上がるほど旋律もよく聞こえ、大きくなる。

透き通るような歌声だ。



And that yet once before I die
Thou wilt vouchsafe to love me.―



この愁いの曲は…



「greensleeves…」

声楽科の生徒にしては、余りに飾り気がない。

素直で素朴な歌い方だ。

けれど歌うことを好む者なのだろう、音は外れない。


―Greensleeves was all my joy
Greensleeves was my delight



たどり着いたのは一つの扉。しかもここは私が先ほど思い出した、例の場所だった。

どこかの馬鹿が馬鹿騒ぎをしていて、フェンスのガタがきていたために、危なく転落事故が起こりそうになり、それ以来立ち入り禁止となった普通科校舎の屋上。


Greensleeves was my heart of gold
And who but my lady greensleeves.―


そこから歌声が聞こえてくるのだ。

そこにいるとしか思えない。



私は扉のノブを捻るが、回らない。

どうやら鍵がかかっているようだ。

ノブを回した音に反応してか、歌声は止む。

…遅番が気付かず閉めたのか…?

普段立ち入り禁止の場所に入っているということは、鍵をどうにかして開けたか、かかっていなかったということだ。

見回りで来た者が気付かず鍵をかけてしまい、帰れなくなったというところか。

…全く、鍵が開いているなら人が居ると思っていいだろうに。見つけられずに鍵をかけてしまうとは…。

明日、今日の遅番を厳重注意だな。と決定しながら、私はきびすを返した。

歌声が止んだその空間では、私が階段を降りる靴音がよく響いた。

…意味を理解して歌っているのだろうか。

あれは確か、女性に捨てられたことを嘆く歌だったはずだ。



―私は天高い神に祈ろう
彼女が私の忠誠に気付き
死ぬ前に一度でいいから
彼女が私を愛してくれることを―



…差し詰め、失恋でもしたか。





職員室で鍵を取り、再び屋上に戻ると、またグリーンスリーブスが聞こえてきた。

鍵を開け、扉を押し開く。

すると、歌詞がはっきりと聞き取れた。



―Ah, Greensleeves, now farewell, adieu
To God I pray to prosper thee



私の目の前に飛び込んで来たのは、



For I am still thy lover true
Come once again and love me. ―



闇に飲まれそうな黒いジャケット、
薄黄のズボン、
夜風に靡く金髪に、
真っ直ぐ真横に広げられた両腕。



―ああ、グリーンスリーブスよ、さようなら
貴方の繁栄を神に祈ります
私は貴方の真の恋人
もう一度ここに来て、私を愛してください―



そして、その男子生徒が、私に背を向けて立っているその場所。


そこは昔の騒動でフェンスが落ち、ガードするものが何も無くなって、
ぽっかりと闇が口を開けて待っている。



「…っ、!」

息を飲んだ。
ぞくりと足が震えた。


…落ちる気か…!



―Greensleeves was all my joy
Greensleeves was my delight
Greensleeves was my heart of gold
And who but my lady greensleeves.―



力ない命の光が、腕を広げたまま私を嘲笑うかのように振り向いた。



―グリーンスリーブスは私の喜び
グリーンスリーブスは私の楽しみ
グリーンスリーブスは私の魂そのもの
私のグリーンスリーブス、貴方以外に誰がいようか―



諦めの色をした瞳が、

再び闇に魅入られる。



駆け寄る。
強く手を引く。

「何をしているんだ君は!!」

怒鳴りつけていた。


私が引いたために生徒の体は傾き、私は逃さないように確保する。

「りじ、…ちょう…?」
「君が命を捨てるには早すぎる。」

立場、それもあったが、
多くはそこではない。

思い出の場所で、

あの人が笑っていた場所で、

簡単に自ら命を投げ出すことなど、許せなかった。

「辛いこともあるだろうが、自分から投げ出すのは甘すぎる。」

強く刻む言葉、
祈りのように。

金の糸がふわりふわりと
闇夜に映えた。

「…理事長…、……大丈夫です。…死にたいくらい悲しいですけど、死のうとは思ってませんでしたから…」

その顔は絶望に拉がれているかと思いきや、なんだか夢から覚めたような曖昧な笑顔のようなものだった。

よく話を聞けば、ただ単に手を広げて、飛べたら自由だろう、などと想像していただけだということだ。

「……。」


…傍迷惑な。

あの状況は勘違いされても仕方ないだろう。

無駄に慌てるところを見せてしまい、私は返す言葉もない。
私から解放された生徒を、そのまま睨み付けながら見下ろしていると、その生徒はふわりと笑う。


「心配させてごめんなさい。…でも嬉しかったです、少しでも必要だと言われてるみたいで…。…あの人に愛されなくても、僕に生きる意味はあるのかなぁ…」
「馬鹿なことを言うものじゃない。君にはたくさんの可能性がある。…生きる意味など、いくらでも見つけられるだろう。」

生徒にこんな話をする日が来るとは思わなかった。
こんな話題でなければ、深くは話さなかったかもしれないが。

「君は確か、コンサートのメンバーにいただろうか?」
「…あ、加地葵、…一応ヴィオラ…です。」
「そうか。…来たまえ。この時間だ、家まで送ろう。」

車に乗せれば、借りてきた猫のように静かになるかと思ったが、
気を使ってか、車内でも生徒はたわいもない話を続けていた。



…ヴィオラの加地葵…か。



私はただ、君の歌声があまりにも耳に残ったので、

消えさせるのが惜しかっただけだ。

ただそれだけだ―。






コメント












管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
トラックバックURL:
http://serenadehisyo.blog121.fc2.com/tb.php/222-dab5c5ea
≪ トップページへこのページの先頭へ  ≫