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君と過ごす大切な日々2

 2007-10-19


月森が渡したいものがあると言った。

HLが終わり、急いで屋上への階段を上がれば、情熱的なカルメンが聞こえた。

一瞬耳を疑う。あいつはこんな音は出せただろうか。

こんな感情が乗った、熱い、それでいて深い旋律が歌えただろうか。



俺は・・・少しの間、屋上へのドアを開けられないでいた。

――― 魅了されていた。




月森は変わったのだろうか。

俺に出会って、俺と過ごすうちに

何かが変わったのだとしたら。

それが音楽家にとって、良い変化なら・・・・


俺は、すごく素直に・・・・嬉しいと思った。




なのに。



『もういいんだ。すまない、わざわざ呼び出して。』

『月森!!・・・・・・・』


どうすればいい?

どうすればこいつの心を取り戻せる・・・

俺は何を間違った・・・?


『土浦・・・』


月森が、俺の名前を呼んで、ゆっくりとこちらを向いた。

金色の麗しい月の瞳が、こちらをまっすぐと射抜く。

瞳の金はその長い睫毛で、暗い影を落としている。


一枚の絵のようだと思った。

屋上に差し込む夕日の朱に、月森の姿が佇んで。

その右側には濃い影が伸びていた。


いつもなら迷い無き光りを灯す瞳は、今は悲しそうに翳っているのが気にかかる。

嫌な予感がした。


俺は、時が止まったかのような感覚に唾を飲み込む。

無意識に、頭の中で警戒音がなっていることを感じていた。

今このまま手放してしまえば、何かが壊れてしまうような・・・



四の五の考えずに、手が動いた。

気付いたら月森は、俺の腕の中にいた。



『!?・・・・土浦・・・?』


目を見開いて、身体を硬直させる月森がいる。

何に怯えているのか、俺にはわからないけれど。


『俺は・・・覚えてないこと、ホントに悪かったと思う。今日は覚えてなきゃいけない、大事な日だったんだろ?』

あやすようにゆっくりと、月森に語りかける。
自然と腕の力が強まった。

『俺も、何の日か思い出したいし・・・お前と気持ちを共有したい。』


素直に気持ちを伝えればきっと。

きっと心が開いてくれると信じて。


『月森・・・・、・・・教えてくれないか?』


優しく耳元で囁いた。



月森は俺の目をじっと見て、また目線を外して何かを考えていた。

『不安になったんだ・・・。』

『・・・不安?』


あぁ、と呟いて、月森はまた俺のほうを見る。
今度はなんだか頬が桃色に染まっていた。


『・・・っ、・・・』


何かを言おうとして、口を軽く開け、ぱくぱくと動かしたが、
結局言葉にならずに、口を結んでしまう。

顔を赤くして、困ったように眉を寄せる月森も可愛いと、こんな時でさえ思ってしまう自分に呆れる。


『なんだ?・・・』


首をかしげて、催促してみた。

月森は恋愛に対して、発言でも行動でも臆病なところがある。

その不器用さが可愛さでもあるのだが、

こちらが先を誘ってやると、やっと意を決したように口にしてくれる。


それは月森が恋というものを大切にしている証拠だと思う。

自惚れてみれば、俺との関係を。

あとは、そういうことを言のが慣れてない・・・
俺と一緒で妙なプライドが邪魔しなければ。



『・・・・・君は・・・俺の事をどう思っているだろうか・・・』

『は?』


腕の中から見上げる月森は、予想もしないことを口にした。

何だって?どう思ってるか?どうって何だ?


『どう・・・?って』

『何とも思っていないのか・・・?』




・・・・なんだそれって・・・あれか。

俺になんか愛の言葉とか言えってのか!?

・・・・・・・・・・


女は苦手だった。

愛だの恋だの軽く口に出して、すぐに抱きついてきたり、
逆に俺にも同じものを求めてくる。

愛の言葉なんて一番ガラじゃない。

言えるわけがない。一番苦手な部類だ。


言ってる自分が痒くなる。




でも月森はそれを求めるのか・・・?

女じゃなくても・・・・?



月森の目はいつも以上に真剣で、願うように潤んでいた。

さっきまでヴァイオリンを奏でていた指は、俺の黒のブレザーをギュッと固く握っている。



こんな状態の好きなやつに・・・


答えてやらなきゃ、男が廃るってもんだろ?



そういうことを言うのが慣れてないだけで。

お前と一緒で妙なプライドが邪魔しなければ。




続く
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