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〜Seiso〜漆黒の剣

 2008-01-16
ひとつ歯車が狂ってしまえば、どんどんいろいろな部分に歪みが出る。

思いのほか演技に身が入らなくて、俺はどうしようもないドツボにはまっていた。

「俺達は俺達の道を行けばいい。信じた道なら貫ける筈だ。」

スーツに身を包んだ土浦は、俺の手をとる。

ここは俺の役は決死の思いで仲間よりも好きな人を選ぶシーンだ。

けれど。

この前のように土浦の仕草や言葉が響かない。

俺に迷いがあるからだろうか、彼の体温はきりきりと俺の肺を締め付けた。

何故君は…俺を…


そう考えながらも、もう覚えている台詞は自然に口から滑り出る。

「ああ。俺は…君だけを信じている…」

だから君に命を渡そう、そう続くはずの台詞が胸につかえた。
息苦しい。


信じている?誰を?

俺は君がもうわからない…。


次の言葉が口から出ないでいると、天羽さんから声がかかった。

「カーット!…どうしたの?月森くん。台詞が全部棒読みだよ?!…どこか具合悪い?」

俺は…

「すまない…。感情が乗らなくて…」

どこを見ているのか自分でも曖昧な状態で、心は虚ろなまま答えた。

「月森…?」

土浦も俺の名を呼んでいたが、顔を見ることはできない。


結局、あまりに俺が演技に身が入らないために、撮影は一時中断になってしまった。



どうにかしたい。

心の靄を晴らしたい。

けれど何のピースが外れているのかさえ、わからなくなっていた。



スタジオの廊下で紅茶を飲んでいると、土浦に突然声をかけられた。

真剣な表情の彼に、こちらも背筋を正す。

「あのさ…、お前を…その、…抱いてもいいかって聞いたことあったが…」

土浦は、眉間に深くしわを刻みながら話し始める。

俺は、避けたい話題だったため、逃げ出したくなったが、その気持ちを抑えながら話を聞いた。

「あれ、…もう忘れてくれ。俺はお前のこと何とも思ってないから。」

その言葉に、心臓が握り潰されるように感じて。

痛い。痛い。

なにかが悲鳴をあげている。

「君はなんとも思わなくて、俺を抱きたいと思ったのか?!」

俺がそう叫ぶと、君は少し下を向いて、押し殺した声で答える。

「…気の迷いだ。その場の空気に流されただけで…、お前のことは好きでも何でもない。」

土浦の断言するその言葉を聞いて、

俺は、胸の鳩尾のあたりに、太く大きな長剣が深く鋭く突き刺さったような気がした。

吐き気が襲ってきて、血でも出るかのような感覚に陥る。

俺はその場から駆け出した。

もう彼の顔を見られなくて。

君はやはり俺を、冗談で。遊び半分で抱こうとしたのか―


がむしゃらに走る俺の目からは、涙が次々に溢れ出して止まらなくなる。

吐き気が泣き声に変わるころ、前が涙で見えなくなっていて、誰かにぶつかった。

「ぁっ…、すみません…」

「月森くん?…どうしたの?…何かあったのかな?」

ふわりと良い香りの香を纏う、柚木先輩が笑っていた。


大きくなった傷跡を治してくれるのは誰なのかー
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